vol.9
2024年6月15日発行
①求められる追指導
厚生労働省が昨年公表した調査結果によると、2020年3月新規学卒者の、卒業後3年以内の離職率は、中学52.9%(前年比4.9ポイント減)、高校37.0%(同1.1ポイント増)、短大等42.6%(同0.7ポイント増)、大学32.3%(同0.8ポイント増)となっており、中学卒以外は増加しています。
また、卒業後1年以内の離職率は、中学32.1%(前年比4.8ポイント減)、高校15.1%(同1.2ポイント減)、短大等16.3%(同1.5ポイント減)、大学10.6%(同1.2ポイント減)でした。どの学歴も昨年度より減少しましたが、大学卒以外は、卒業後3年以内の離職者のうち1年以内の離職者の割合が多くなっています。
学歴別離職率の詳細は、下のリンクから厚生労働省のサイトをご覧ください。
【厚生労働省】新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)
早期離職の原因の多くは、「自分の希望と業務内容のミスマッチ」「職場での人間関係」「労働時間・休日・休暇の条件への不満」です。18歳という年齢では、職業観や人生観、社会性などの面でまだまだ未熟なケースも多いため、生徒が就職先によりよく適応し、進歩・向上していくことができるよう、卒業後も引き続き指導、助言を与えていく必要があります。
入社して何年も経たないうちに職場に適応できずに退職してしまうのは、生徒を送り出す学校側にとっても、企業との信頼関係を築くうえで極力避けたい事態です。卒業生のためばかりでなく、在校生のためにも、追指導について組織的・計画的な取り組みを進めていきたいです。
②追指導の内容と方法
●追指導の内容
就職者への追指導とは、個々の生徒が、高校卒業後に新しく経験した職場生活によりよく適応し、望ましい自己実現が図れるように、卒業後も引き続いて指導・援助を行うことです。
基本的には就職者全員が対象となりますが、特に配慮が必要となるのは、卒業前から進路先に不満をもっていた者、在学中の行動が不安定だった者、寮や下宿で生活している者、勤務形態が時間的に不規則、あるいは残業時間が多い事業所に就職した者、離転職した経験のある者、などです。
追指導の目的は、就職先での卒業生の現状と悩みなどを把握し、それらの解決の手助けをしたり、職場への適応意欲を喚起させたりすることです。
追指導の実施時期は、新卒者を対象とする場合、スランプなどに陥りやすい卒業後3か月頃が適当と思われます。最終的には、卒業の3年後くらいまでフォローできれば申し分ないと言えるでしょう。
〇年間計画の例
4月 |
追指導年間計画の立案 関係書類(追指導個人カード等)の作成 |
5月 |
進路未決定者等への面接指導 |
6月 |
文書による追指導の準備(アンケート等の作成・発送準備) |
7月 |
3月卒業生に対するアンケート実施 |
8月 |
アンケートの回収と整理/クラス会・同窓会を利用しての面談等 |
1月 |
追指導の資料整理・結果のまとめ |
●追指導の方法
卒業生一人ひとりへ指導を行うにあたっては、「追指導カード」を作成すると情報を整理しやすいです。就職と進学、合わせて卒業生全員について利用可能で、同窓会会員カードとしても活用することができます。各進路先における卒業生の適応の状況について、記録を累積できるようにしておくといいでしょう。
〇追指導カードの例
〇文書による追指導
封書または往復ハガキ等による追指導は、一度に広範囲にわたる激励やアンケート調査が可能なので、よく用いられる方法です。
しかし、生徒個々の内面的事実に触れることが困難で、適切な指導、助言、援助が行われにくい面があります。したがって、広い領域にわたって不適応が察知できるような質問内容を心がける必要があります。
また、適応への援助や激励のための資料(在校生の激励文や学校新聞など)を同封して送付するなど、親切で温情のあるものとなるように留意することも重要です。
封書等によるアンケート調査内容には次のようなものがあります。
1、卒業年/課程/クラス/担任
2、氏名/住所/電話
3、就職先に関することがら
・事業所名/業種/事業品目/従業員数
・所属部/課/職種/仕事の内容/満足度
・給与/勤務時間/残業/有給休暇/福利厚生/採用条件との相違/満足度
・職場の人間関係/高卒者の扱い/満足度
・現在の事業所についての全体としての満足度/転職希望の有無/理由
・相談したいことがら/理由
4、高校時代の進路指導に対する意見
・高校時代の学習活動で役立ったこと、役に立たなかったこと
・進路指導でよかった点、不満な点
5、後輩への助言
6、友人の状況など
〇面接による追指導
卒業生の職場を訪問するなど、面接実施による追指導は、最も直接的で効果をあげることができます。対象は卒業生全員に行われるべきものですが、すべての卒業生に対して行うことは、時間的にも経費面からいっても困難です。
したがって、とくに次のような卒業生に対する重点的なケアとして行われるのが一般的です。
1、文書による追指導の回答の中で、相談の依頼のあった者、悩みを抱えていると感じられた者、職場に溶け込めないでいる者
2、卒業前から就職先に不満があった者
3、在学中の生活、行動等に問題があった者
4、寮、下宿等で生活している者
5、労務管理等のよくない事業所に就職した者
6、身体等に障害がある者、病弱であった者
また、指導方法としては、次のようなものがあります。
1、学校または特定の場所に招集して行う。
2、職場訪問・家庭訪問
3、同窓会や座談会等の機会を利用して行う。
4、多くの卒業生が就職している都市等へ教師が出張して、特定の場所に招集して行う。
面接の際の留意点として、単に興味本位で進路先について聞くのではなく、人生のよき相談相手として接するような心構えが大切です。
〇職場訪問による面接指導の例
とくに前述のケアを要すると思われる卒業生、その年初めて卒業生が就職した新規の事業所などを重点的に訪問します。
面接指導の進め方としては、次のような手順を踏むのが望ましいです。
1、事前に事業主に訪問の目的、日時、訪問者の氏名等の連絡をとり、了解を得ておく。
2、事業主に来意を告げ、懇談しながら事業内容、作業能力、勤務状況、労働条件等を把握する。
3、本人の作業状況を留意し、作業現場を視察する。
4、面接場所の提供を受けて、面接を開始する。
5、本人に十分に話をさせるとともに、予定した事項を聴取しながら、激励・援助の言葉を伝える。
6、問題のある場合には、その解決について重点的に話し合うようにする。
7、必要ならば、次の面接を約束する。
8、その事業所に卒業生が多数就職している場合には、可能ならば最後に一同を集めて激励する。
9、事業主等への礼状を発送する。
●実施結果の活用
文書や面接による追指導によって得られた結果を検討・考察して、以下の点を明確にします。
1、進路指導の成果として認められるものは何か
2、進路指導の不十分さによるものは何か
3、卒業生個々の責任に帰するものは何か
4、外部の原因によるものは何か
追指導の結果は、以下のように、学校の進路指導の改善はもちろん、家庭や地域社会との連携など、可能な限り多方面に役立てていきたいです。
1、進路指導の評価
2、職員の進路指導に対する認識、理解の深化
3、進路指導の全体計画や個々の計画の改善
4、指導法の改善
5、生徒の保護者に対する指導資料の作成
6、外部諸機関への働きかけ