vol.8
2024年5月15日発行
採用内定は、就職指導のゴールではありません。就職先内定後に生徒が生活指導上の問題を起こす、社会に出て職場不適応をみせる、といったケースを防ぐためにも、組織的な取り組みとして内定者指導を考えていくことが重要です。
①試験直後から内定直後まで
就職試験から内定後数週間のうちにやっておきたい事務手続きや留意点をまとめました。
●受験報告書の提出
記録と今後の指導の参考資料として受験報告書を作成するように指導します。学校独自の報告書には、学科試験や適性検査の内容、面接試験の形式や質問事項、作文のテーマなど試験の概要を記録させます。フォーマットを作る際は明確かつ詳細に記入させるために、選択肢を多く用意して印をつける形式にするなど工夫が必要です。後輩への有効な資料となる情報が盛り込まれるよう配慮したいです。
〇受験報告書の例
●内定後の事務手続き
1、内定先への挨拶状の発送
採用内定通知が生徒に届く頃、内定先への挨拶状を提出するよう指導します。
見本を作成して生徒に配布し、それを参考に書かせるとスムーズです。挨拶状は、必ず封書で送らせます。その際、同一事業所を複数の生徒が受験した場合には、内容が同じものにならないようにしたいです。
2、誓約書、承諾書の提出
誓約書など事業所に提出すべき書類が届いたらコピーをとり、練習後に清書させます。内容についてチェックするとともに、書類提出後の入社辞退は原則的に認められないことを伝え、最終的な入社の意思を確認します。なお、提出書類を送付する際に、1の挨拶状を同封しても問題ありません。
3、合格報告書の提出
合格報告書の作成や内定先の研究は、内定先への理解を深めると同時に、就職に対する心構えを養うのに有効です。また、その後の進路指導の資料にもなります。
就職に際しての不安や悩みを書いている生徒に対しては、随時面談を行い、入社までにその解決を図らなければなりません。問題点を明確にし、新たな考え方や解決法などを提案することで、問題解決の見通しをもたせることが大切です。不安や疑問を取り除き、就職への意欲を喚起したいです。
●不合格者に対する指導
不合格の連絡があった生徒に対しては、次の事項を確認し、新たな事業所へ再挑戦するように励まします。
・試験当日、自分なりに実力が発揮できたか。
・応募先への合格に向けて、事業所を研究し、勉強(努力)をしたか。
・不合格の原因は何か予想がつくか。
本人の反省を聞きながら、次の事業所選択に向けてサポートします。必要ならば、焦らず少し考えさせるために時間をおくことも大切です。
②卒業までの内定者指導
就職先内定後の過ごし方として大切にしたいことは、以下の2点です。
1、残り少ない学校生活を、学習面・生活面ともに充実させる
2、社会人としての心構えやマナーをしっかり身につけさせる
特に後者については、企業からの要請が強い項目のため、資料としてまとめたものを配布し、しっかり理解させるよう指導します。
〇新入社員としての心構えの例
①時間を守る
遅刻や無断欠勤は絶対に許されない。毎日、余裕をもって出かけよう。
②服装や身だしなみをきちんとする
社会人としてふさわしい服装をし、頭髪やひげ等に注意をする。
③挨拶をする
「おはようございます」「ありがとうございます」「失礼します」「すみません」「お願いします」等、心をこめてはっきりと言う。
④正しい言葉づかいをする
特に社内・社外における敬語の使い分けについて注意をする。
⑤職場への適応、協調に努力する
会社では、多くの人々の協力のもとに仕事がなされる。1日も早く慣れ、協調の心を持つことが大切である。
⑥電話の応対を正しくする
電話は、用件のみを手短に正しく心をこめて応対する。また、用件はきちんとメモをし、すぐに処理をする。
⑦健康に留意する
特に入社当初は気を遣い疲れる。健康第一であるから体調管理に十分に気をつけて、仕事に励みたい。
⑧勉強を続ける
入社直後から報告書を作成したり、社内研修(勉強会)が行われたりするので、仕事に対する創意工夫・研究を深めつつ、勉強を続けることが大切である。
〇卒業までに身につけたい基礎知識・マナーの例
○国語…漢字(読み・書き)、語句(同義語・反意語・同音異義語)、四字熟語、慣用句、故事成語・ことわざ、敬語、手紙の書き方など
○数学…四則の計算、小数・分数の計算、文字と式の計算、1次方程式・2次方程式、面積・体積、速さ、正負の数、割合(小学校・中学算数)など
○社会…政治経済(日本国憲法の基本原理・議会制民主主義・租税の種類・労働基本権と労働三法・少子高齢社会・社会保障制度など)、地理(国々の名称と位置・日本の位置と領域・都道府県の構成と県庁所在地や特産品など)、歴史(世界の古代文明・日本の歴史など)
○自然科学…中学理科(光と音、化学変化と物質の質量、運動の規則性、火山と地震、天気の変化、天体の動きと地球の自転・公転など)
○英語…単語(スペリング・意味)、イディオム、簡単な会話表現、標識など
○社会常識…選挙、銀行(口座、貯金)、少子高齢化、年金、税金、保険、クレジットカードなど
○マナー…ビジネスマナー(電話・手紙・メール)、言葉づかい、身だしなみ、冠婚葬祭、乗り物、食事、SNSの使い方など
○トラブル防止…ストーカー、アルバイト、悪質商法、消費者金融、カード犯罪、インターネット、クーリングオフ、振り込め詐欺、交通事故、薬物、飲酒など
内定後の指導として主なものを紹介します。
●内定先の研究
1、事業所を調べる
合格報告書とは別に、内定が決まった事業所の概要や実績等の情報を調べさせ、併せて現況をチェックさせます。内定者としての企業研究は就職への自覚を高めるとともに、就職先の理解を深め、就職後の職場適応につながります。
概要については、設立年度、資本金、代表者、経営理念、将来性、関連会社などを、現状については、従業員数、年度実績、仕事の分野、事業内容、関連業務などを入社案内や社内報を参考にチェックさせます。
また、求人票を見直して、求人数、職種・仕事の内容、就業時間、休日・有給休暇、福利厚生、賃金・賞与・各種手当なども改めて確認させます。
2、通勤経路の確認
前もって会社までの通勤経路を調べさせておきます。特に朝の通勤ラッシュ時を想定し、時間には余裕をもたせ、遅刻しないように注意させます。
●卒業生からのアドバイス
事業所に卒業生がおり、もし可能ならば、内定後の高校生活の体験や、入社前にやるべきことをアドバイスしてもらうのもよいでしょう。入社前にしておけばよかったこと、するべきこと、また、入社前の心構えなど、経験に基づいた話は生徒を十分に刺激し、卒業までの数カ月間を充実させることに非常に効果的です。
●卒業論文などの作成
卒業論文や卒業制作などの課題を設けて、総合型選抜・学校推薦型選抜合格者や専修・各種学校進学者と一緒に、就職内定者の指導にあてる学校もあります
テーマは、「高校3年間を振り返って」、「就職するにあたっての心構え」、「社会人としての生活設計」等、高校生活の総括や進路に密着したもので、指導は担任や進路指導部があたります。「後輩へのアドバイス」という視点で書かせると、先輩としての意識から気を引きしめて書くようです。
400字詰め原稿用紙1〜3枚位の作文程度のもので十分です。卒業前に学生としての気持ちを整理し、将来の進路に対する心構えをまとめることで、仕事に対する意欲向上につながります。集めた卒業論文は、まとめて製本したり、「進路の手引き」に掲載したりして、後輩の指導教材にも活用できます。
●内定者講座・資格取得指導
様々な要素を盛り込んだ内定者講座を開く学校もみられます。内定者がほぼ揃う11月から2月にかけて数回開催する場合と、卒業を控えた2〜3月に集中して開催する場合があります。
主なものとして、外部講師による講演、電話講習、マナー教室、校長・進路指導部による講話などがあります。パソコンの基本操作、ワードやエクセル等を使ったビジネス文書や資料の作成、漢字検定、ペン習字、手紙の書き方、テーブルマナーなどを指導している学校もあります。また、入社後に必要な資格の勉強をこの時期から始めさせると、意欲の向上や卒業後に実際の仕事に役立ちます。