vol.6
2024年3月15日発行
①採用試験における作文試験
●作文試験のねらい
作文試験は、「文章による面接」ともいわれ、筆記試験や適性試験では測ることのできない受験生の人となりを読み取ろうとするねらいがあります。受験生がどのような人物かは、直接会って確かめることが一番ですが、面接試験で一人ひとりに十分な時間を割くことは難しいです。よって、採用担当者は、面接で実際に話してみた感触と、作文から読み取った人物像を総合して判断します。
作文には文書力だけでなく、適性や興味、ものの考え方、性格や教養などさまざまな面が現れます。それは、書かれた内容からだけでなく、文字の書き方の丁寧さからもうかがい知ることができます。単なる学力だけでなく、人物を重視する企業は年々増えており、作文試験の結果が合格に占めるウェイトも高くなっています。作文を軽視しないよう指導しておきたいです。
また、入社してからも文章力は必要とされます。企画書・報告書など、文書の作成は日常的に行われます。誤字・脱字がないことはもちろんのこと、自分の考えをわかりやすく伝える表現力は社会人だからこそ求められます。試験対策だけでなく、社会人の教養として、文章で自分を表現できるようにトレーニングを積ませておきたいです。
②作文試験の傾向と対策
●作文試験の傾向
作文試験は、決められた課題について一定の字数・時間のもとに書くケースがほとんどです。内容の独創性や文章テクニックを見るものではなく、あくまでも企業にとって採用したい人物であるかどうかを知るために課されます。
したがって、課題は変わったものや難解なものはほとんど出題されず、分野も限られています。よく出される5つの課題について、下にまとめました。
①学校生活に関すること: 友人、学校行事、クラブ活動、先生など、学校生活を通して学んだこと、 感銘を受けたことなど。 ・高校生活を振り返って ・高校生活の思い出 ・高校生活で得たもの ・高校生活で力を注いだこと ・クラブ活動と私 ・残りの高校生活について ・高校生活で印象に残ったこと ・私にとっての学校生活の意義 |
②社会人、職業人となるにあたって: いずれは社会に出て職業人となっていく。それに対する心構え、 仕事に対する考え方、志望動機、入社後の抱負など。 ・社会人としての抱負 ・社会人としての心構え ・こんな社会人になりたい ・私にとって仕事とは ・私の職業観 ・会社に入ってやりたいこと ・志望動機 ・社会人になるにあたって思うこと |
③自分に関すること: 自己PR、将来の抱負、興味をもっていること、得意なことなど。 ・私の夢 ・○年後の私 ・私のセールスポイント ・私が熱中したこと ・私の友人 ・私の将来設計 ・今一番関心があること ・私の得意なこと ・私の趣味 ・最も感動したこと ・私が経験した困難について ・最も印象に残っていること |
④社会一般に関すること: 政治、経済、環境など、社会で起こっている出来事や現象など。 ・最近のニュースで関心をもったこと ・現代社会に望むこと |
⑤抽象的なこと: 「友情」など個人的なもの、「責任」など社会性をもったものに分類される。 ・自由 ・希望 ・感動 ・友情 ・やさしさ ・責任 ・チームワーク |
字数は600~800字程度、制限時間は30~60分程度というのが一般的です。原稿用紙は横書きのケースが多いですが、縦書きのところ、A4判の紙に罫線のみが印刷されているところもあります。
●作文試験の注意点
〇課題のねらいを読み取る
いくら巧みな文章でも、出題意図と外れていては評価されません。たとえば、「高校生活の思い出」という課題であれば、「どの程度積極的に高校生活を送ってきたか」を採用担当者は知ろうとしています。ただし、「○○がおもしろかった。△△をして楽しかった」と『思い出』を並べただけでは、課題に十分にこたえたとは言い難いです。
作文試験では、出来事・感想だけでなく、その経験を通じて何を学び、今後にどのように生かしていきたいと考えているかを担当者は知りたがっていることを意識しておくことが大切です。
〇分量
作文は、内容だけでなく規定の字数で書けたかどうかという点も評価の対象になります。規定よりも少なすぎると、いくら内容がすばらしくても総合評価は低くなってしまいます。与えられた分量の8割以上は書くようにしたいです。
いきなり600字や800字の作文を書くことが難しいと感じる生徒に対しては、最初は50字、100字といった順にレベルアップを図りながら、字数の感覚をつかんでいかせます。
最終的に、制限時間内に規定字数の作文が書き上げられるよう、少しずつトレーニングを重ねていくことが大切です。
〇原稿用紙の使い方
タイトルの書き方や氏名の記入方法など、原稿用紙の使い方を知らない生徒もいるので、基本的なルールをしっかりと身に付けさせたいです。書き方の基本ルールについては、資料を作成して配布するのがよいでしょう。「原稿用紙の使い方」のチェックポイントの一例を示します。
❶書き出し、段落の始まりは 1 マス目を空ける。
❷句点、読点、カッコは 1 マスを使って書く。ただし、会話の終わりの句点と閉じカッコは、同じマス 目に書く。
❸数字は、横書きでは算用数字(1、2、…)、縦書きでは漢数字(一、二、…)を使う。2 ケタ以上の 算用数字は、1 マスに 2 字入れる。
❹原稿用紙の向きに注意する。横書きの原稿用紙は横書きで使い、縦に使わない。
③「書く」力を育てる
●作文コンプレックスの払拭
与えられたテーマについて、自分の考えを理路整然とまとめることが苦手な生徒が多いようです。手紙や論文といった、決まりにのっとった文章を書く機会が少ないためか、作文試験で「どう書いていいかわからない」「自分には作文力はない」と『苦手』のレッテルを貼ってしまっています。
そんな生徒も、X(旧Twitter)やLINEなどのSNSで自分を表現することは抵抗がないというケースが多いため、書くこと自体は嫌いではないようです。そのあたりを上手にくみ取って、生徒たちの作文コンプレックスを取り除くことが、指導側の大きな課題となります。
●練習を重ねることで身に付く「書く力」
書くことへの苦手意識を取り除き文章を上達させるには、何よりもまず「書く機会」を多く与え、書くことに慣れさせることが第一歩となります。
作文試験では、奇抜な内容や表現の技巧に凝る必要はなく、素直な言葉で相手に自分の気持ちを伝えていけばよいです。「ルールが多くて難しい」というイメージを持っている生徒もいるが、自分の意見をわかりやすく正確に伝えるための大事な決まり事であると認識させ、練習の時から意識させることが大切です。
●日頃の対策
①短い文章から徐々に字数を増やして書く
まずは時間無制限・少ない字数から始め、徐々に長い文章を書くことに慣れさせていきます。ただし、作文の練習として行わせる場合は書き言葉で文章を作ることを意識させたいです。友人同士のやり取りとは違う言葉遣い・表現に慣れることが大切です。
②新聞のコラム・社説を書き写す
新聞のコラム・社説は文章の構成・表現を学ぶのに適した身近な題材です。短い文章の中にも起承転結があるので、書き写すことで文章の構成や流れ、言い回しなどが自然と身に付いてきます。慣れてきたら、自分の言葉でまとめ直させてみるとさらによいです。
③「題材メモ」を作る
試験では制限時間内に作文を完成させなければならず、内容をじっくりと練る時間はあまりとれません。しかし、出題されるテーマはある程度決まっているため、自分の長所・短所、学校生活の出来事、社会人としての抱負などをまとめさせておくことをお勧めします。その際、ただ項目を列挙するのではなく、どのように感じたか、何を学んだかまで踏み込んでまとめさせると文章の練習にもなります。
④他人に読んでもらう
作文試験では、受験生と面識のない担当官が採点するので、いかに詳しく正確に相手に伝わる文章が書けるかがポイントとなります。書いた作文を他人に読んでもらい、添削・評価されることで、より伝わりやすい作文が書けるようになるでしょう。そこで、添削指導は生徒と直接面識のない先生が担当することで、より客観的に評価ができます。その際、前回と比較して進歩した内容であれば具体的にほめるなど、生徒に自信をつけさせるよう指導していただきたいです。