公務員試験ジャーナル

vol.1

2024年8月発行

受験指導を始める前に知っておきたい
公務員の基礎知識

INDEX

1. 公務員とは
2. 国家公務員の種類
3. 地方公務員の種類
4. 公務員の給与と昇任
5. 《コラム》公務員の魅力

1. 公務員とは

一口に「公務員」といっても、その職務は多種多様です。また、その性質によって国家公務員と地方公務員、一般職と特別職等に分けられますが、憲法第15条2項には「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」とあります。つまり、職種を問わず、公務員は皆「国民全体の奉仕者」として職務に従事する義務を負っている、ということが示されています。

公務員の仕事は、国民・住民の利益に直接影響を及ぼすため、公務員には民間企業の社員以上に高い倫理観が要求されています。こうした「公務員」の性格から、公務員は憲法の保障する基本的人権に制限が課せられているのです。まず、国家公務員法第96条および地方公務員法第30条には「職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」とあります。これを服務の根本基準とした上で、次のような服務上の規定がなされています。

①労働基本権の制限

公務員は、その職務の公共性と地位の特殊性から、ストライキ等の争議行為が禁止されています。ただし、団結権・団体交渉権については、職種によって制約される内容が異なっています。

●公務員の労働基本権の制限

団結権 団体交渉権 争議権
民間企業の労働者

(ただし、一部公益性の強い特殊な企業などを除く)
警察職員、海上保安庁または刑事施設で勤務する職員、防衛省職員などの国家公務員
警察職員、消防職員などの地方公務員

×

×

×

上記以外の一般職・非現業の国家公務員・地方公務員(含教育職員)、裁判所職員、国会職員

(職員団体)

×

現業職員、行政執行法人、地方公営企業の職員、技能労務職員(地方)

(労働組合。ユニオンショップは禁止)

(労働協約締結は可能。ただし、効力の制限および団体交渉の対象事項の範囲制限あり)

×

いずれにせよ、公務員の労働基本権は少なからず制約を受けることになりますが、人事院や人事委員会の勧告制度等の代替措置により、勤務条件や身分は保障されています。

②政治的行為の制限

公務員は、選挙権の行使を除き、政治的に中立な立場でいなければなりません。例えば、特定の政党を支持するために寄附金を募ったり、デモを企画したりすることも認められていません。この制限は、偏りのない行政の運営や公共の利益を保障するために必要とされているのです。

③私企業からの隔離

②と同様、行政の公平性という観点から、公務員は営利企業の役員・社員になることや、自ら営利企業を経営することは禁止されています。また、離職後の営利企業への就職に関しても規制が設けられています。ただし、就職は憲法で保障されている職業選択の自由や勤労の権利等にも関わることでありますので、公共の利益に反しない限りは、官民人材交流センターからの紹介や、再就職等監視委員会などの承認を得ることで認められています。

国家公務員と地方公務員

公務員は、国家公務員と地方公務員に大別できます。

国家公務員は、内閣府や総務省等といった国の行政機関(その地方機関や付属機関等を含む)のほか、国会や裁判所等に勤務する職員を指します。

地方公務員は地方公共団体(都道府県や市区町村等)に勤務する職員を指し、一般的にイメージされがちな都道府県庁・市区役所・町村役場の事務職員だけでなく、公立学校の教職員、警察官、消防士等も含まれています(ただし、警視正以上の警察官は国家公務員)。

大まかにいえば、国家公務員は国家規模の大きな事業に携われる点が魅力である反面、巨大な組織の中で仕事の成果を身近に感じにくいという側面があります。それに対して、地方公務員は、その地域に限定された職務となりますが、住民の生活に密着した仕事であるため、その成果を実感しやすいことが特長です。

担当職務に関しては、国家公務員は採用された官庁等から異動することはほとんどありませんので、一貫してその官庁等の仕事にのみ従事することになります。それに対して、地方公務員は、その地方公共団体の内部組織間の異動は少なくありませんので、性質の異なる職務に広く携わることになります。

転勤という観点では、国家公務員は全国各地に異動を命じられる可能性がありますが、国家一般職高卒区分での採用者については、原則として採用された人事院地方事務局(所)の管轄区域内に限定されています。地方公務員は原則としてその地方公共団体の区域内で職務に従事することになります。

2.国家公務員の種類

国家公務員は、一般職と特別職に分けられます。国家公務員法第2条3項に掲げられている職が特別職とされ、それ以外は一般職です。特別職には、大臣をはじめとした政府高官だけでなく、防衛省職員、裁判所職員、国会職員等も含まれます。これらの職には国家公務員法は適用されず、給与や服務等に関する制度が別に定められています。また、任用に関しても個別に試験や選考が行われています。

国家公務員の一般職のほとんどは、人事院が実施している国家公務員採用試験で採用されています(ただし、同試験で採用される防衛省職員は特別職)。一般職の職務内容も多岐にわたりますが、公務員の種類は人事院のホームページなどから確認してください。

人事院 国家公務員の紹介 https://www.jinji.go.jp/saiyo/syokai.html

行政職(一)

行政機関(付属機関等を含む)で事務や技術の仕事に従事する職員。一般職給与法が適用される職員のほとんどが該当します。

行政職(二)

公用車の運転、ボイラー等の機器の操作、庁舎の監視その他の庁務に従事する職員。

専門行政職

航空管制官、特許庁の審査官・審判官、家畜防疫官、植物防疫官等、特定の専門行政の分野で専門的な知識・技術を必要とする業務に従事する職員。

税務職

国税庁で租税の賦課・徴収に関する事務に従事する職員。税務職員採用試験での採用者等が該当します。ただし、入庁直後に税務大学校で研修を受講する1年間は行政職(一)とされます。

公安職(一)(二)

治安維持に係る業務に従事する職員。警察官、皇宮護衛官、入国警備官、刑務所等に勤務する職員(刑務官等)が(一)、検察庁、公安調査庁、少年院、海上保安庁等に勤務する職員が(二)に該当。

海事職(一)(二)

海に関する事項や海上で発生する事項等に携わる職員。海上保安庁等の船舶に乗り込む職種のうち、遠洋区域・近海区域を航行区域とする船舶やその他人事院の指定する船舶に乗り込む船長、航海士、機関長、機関士等が(一)、その他は(二)に該当。

教育職(一)(二)

教育、研究、職業訓練等に携わる職員。行政機関に置かれる大学校の教授等、大学に準じる教育施設に勤務し、学生の教育・研究指導および研究に係る業務に従事する職員等が(一)、医療施設等に置かれる看護師等の養成所の教官等、高等専門学校に準じる教育施設に勤務し、職業に必要な技術を指導する職員等が(二)に該当。

研究職

各官庁の付属機関または独立行政法人である試験所や研究所等に勤務し、試験研究や調査研究業務に従事する職員。

医療職(一)(二)(三)

医療に従事する職員。病院、療養所、診療所等に勤務する医師、歯科医師が(一)、薬剤師、栄養士等が(二)、保健師、助産師、看護師、准看護師等が(三)に該当。

福祉職

国の身体障害者更生援護施設、児童福祉施設等に勤務し、入所者の指導、保育、介護等の専門的な対人サービスを行っている指導員、保育士、介護員等。

専門スタッフ職

「情報分析官」「政策研究官」「国際交渉官」等として、特定の分野についての高度な知識や経験を生かして調査、研究、情報分析等を行い、政策の企画・立案等を支援する職員。

指定職

事務次官、外局の長、試験所・研究所長、病院・療養所の長等。

特定任期付職員

高度な専門的な知識や優れた識見を一定期間活用して遂行することが特に必要とされる業務に従事する職員。

任期付研究員(第一号)(第二号)

国の試験研究機関において研究業務に従事する一般職の職員で、一定の任期を付して採用された者。

3.地方公務員の種類

地方公務員も、国家公務員と同様、一般職と特別職に分けられます。地方公務員法第3条3項によると、特別職には、臨時的・非常勤的な性格の職(非常勤の消防団員等)や、就任にあたって選挙による選出や地方議会の議決・同意を要する職(地方公共団体の首長や地方議会の議員等)等が該当し、それ以外は一般職です。

地方公務員においても、一般的な事務や技術の仕事に従事する職員が相当数を占めていますが、その他にも、地域住民の社会生活に密接に結びつく教育職、保育士、医療職、福祉関係の資格職、農林水産や土木関係の技術職の職員が多いことが特色といえます。また、前述のとおり、警察官の大多数や消防士も地方公務員とされ、警視以下の警察官は都道府県、消防士は東京都(東京消防庁)、市町村、消防組合の職員です。

地方公務員の一般職の採用は、各地方公共団体で個別に実施される採用試験を通じて行われています。

4.公務員の給与と昇任

公務員の給与は、俸給と諸手当からなり、俸給は民間企業の「基本給」に相当します。初任給は、業務の困難性および責任の度合いなどに応じて金額が異っています。また、昇格・昇給は、従来の年功的な制度から、勤務実績を反映したものへと移行しつつあります。国家公務員の新規高卒者の場合、俸給は下記の通りです(2024年度受験案内より。国家一般職、皇宮護衛官、刑務官、入国警備官、裁判所一般職については、東京都特別区内に勤務する場合の金額)。さらに、この金額に諸手当が加算されます。

国家一般職高卒:199,920円
皇宮護衛官高卒・刑務官・入国警備官:230,160円
税務職員:199,920円
航空保安大学校学生・気象大学校学生:176,596円
海上保安大学校学生・海上保安学校学生:166,600円
衆議院事務局一般職高卒・参議院事務局一般職高卒:199,920円
衆議院事務局衛視・参議院事務局専門職(衛視):230,880円
裁判所一般職高卒:199,920円

地方公務員の初任給は地方公共団体によって異なりますが、大まかにみると、都道府県・政令指定都市では国と同水準である場合が多く、その他の市および町村では国と同水準か、もしくはやや下回っています。昇任については、役職の名称や決定方法は国家公務員と地方公務員でやや違いがあるものの、年齢要件を満たしつつ、一定のキャリアを積めば本人の希望で昇任試験に挑戦することができるという点では共通しているでしょう。また、昇任を選考で決める場合もあります。

公務員の魅力

①公平な受験機会

各試験の受験資格に合致すれば誰でも受験できる。国家公務員一般職高卒の場合、受験資格は高等学校卒業見込み、および卒業後2年以内の者となっている。

②採用は実力本位

採用試験は競争・公開・平等の原則のもと、実力さえあれば誰にでも合格のチャンスがある。

③公共の仕事で、やりがいがある

公共の利益・福祉の増進のために、社会的価値のあるものの創造に携わるので、仕事の成果は後世に残っていく。

④多種多様な職種

事務系職種と一口にいっても、一般事務をはじめ、学校事務、警察事務もある。また、技術系職種も多くの専門分野があるほか、公安系職種には警察官、消防士のほかに刑務官、入国警備官、皇宮護衛官等もある。

⑤能力向上、自己啓発の機会が豊富

研修の機会に恵まれており、直接仕事に関係することだけでなく、国内・国外の最新の知識や技術を得る機会も多く与えられている。

⑥勤務条件の整備

平日の勤務時間は比較的一定している。しかし、実際の勤務時間については、その職務の性質・特殊性から、変則勤務や超過勤務もあり、必ずしも一様ではない。交代制勤務の例としては、国家公務員では航空管制官、税関職員、気象台職員等、地方公務員では警察官や消防士等が挙げられる。

⑦休暇制度の整備

交替制勤務等、特別の勤務に従事する職員を除き、完全週休2日制が導入されている。また、育児休暇制度、介護休暇制度も施行されている。

⑧福利厚生面の施設・環境が充実

職場環境が整備されているほか、住宅・医療施設が充実している。公務員住宅も勤務地や近辺にあり、独身寮もある。

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