1. 本校の概要
熊本県県北に位置する本校は、令和4年度に創立60周年を迎えた、全日制の工業高校です。各学年に機械科2クラス、電気科、電子科、工業化学科、土木科の計5学科6クラスを有しています。県内最大規模の実習棟を設置した“ものづくり拠点校”として、教育環境が整っている点が特長です。
部活動は、スポーツを中心に活発で、生徒の加入率は85パーセントにのぼります。中でも、レスリング部は国体・全国大会の常連校となっています。また、毎年行われている「高校生ものづくりコンテスト」では、昨年度、本校の生徒が、化学分析部門で優勝し、全国で金賞をいただきました。
本校のある荒尾・玉名地域や、通勤圏内で隣接する大津方面は、阿蘇からの豊富な水源に恵まれ、多くの大企業の工場が進出しています。本年2月には、大津方面に、半導体の受託生産で世界最大手の台湾企業「TSMC」が、日本では初めてとなる巨大な工場を完成させました。そのため、関連企業も含めて人材不足の声があがっています。
そのような環境の中、本校では、地域の自治体、産業界、大学等と連携・協働し、生徒の知識や技能、思考力を高め、多面的なものの見方を広げて無限の可能性を引き出すとともに、将来地域を担い支援する人材を育成しています。
2. 進路状況
令和4年度の進路状況は、就職70%、進学30%でした。コロナがおさまって以降、求人数は増加傾向で、令和6年度も生徒が足りない売り手市場が続いています。また、令和3年度より「熊本スーパーハイスクール(KSH)」のプロフェッショナルハイスクール(実践研究型)として熊本県より指定されたこともあり、本校の就職者の特徴として、地元志向が強い点があげられます。令和4年度は県内就職者の割合が55%と就職者全体の過半数を占め、この傾向は、今後も強まっていくものと予想しています。
3. 進路指導の取り組み
進路指導部は、「工業人たる前に、良き人間たれ」のスローガンのもと、生徒自身「人在(単なる人手。指示したことはできる人。自分で考えて動けない人)」から「人材(企業が求める人。可能性がある人)」へと成長する高校3年間を目指し、キャリア教育を展開しています。特にこの一年では、新たに『人財(財産として投資できる人。企業にとって欠かせない存在)への道』(図1参照)および『行動指針』(図2参照)を作成し、この二つを進路指導部の柱としました。
※『玉工手帳』について
『玉工手帳』は学校独自の生徒用手帳で、毎日の予定、1日の振り返りなどを書き込み、教職員がチェックしてコメントを付けるもの(図3参照)。SHR、授業、部活動などで教職員が無理なく声がけを行い、「何かあったらこの手帳にメモをしよう」という意識を持たせて、記帳を習慣化させる。生徒は「主体性」を身に付け、教職員は「可能性」を引き出すというwin-winの関係を構築することができる。
指導の充実を図るために、次のように学年目標を掲げています。
● 第1学年(進路思考)
・『玉工手帳』の活用を促し、基本的な生活習慣・学習習慣を身につける。
・自己分析を行い、自己理解を深める。
● 第2学年(進路研究)
・日頃の授業や部活動、資格取得を通して可能性を高め、情報を適切に取捨選択・活用する。
・他者への貢献を積極的に行い、対人スキルと基本的な労働習慣を身につける。
● 第3学年(進路実現)
・自らの職業適性を把握し、他者の意見を聞き進路先を選択・実現する。
・自分を磨くため最後まで学ぶ姿勢を貫き、玉工生としての自覚を持つ。
4. 『高校生のキャリアノート』の実施にあたって
令和4年度入学生を対象に、『高校生のキャリアノート』(以下『キャリアノート』)を活用しました。
<1年次>年間計画で担任裁量の時間を利用し、進路行事に沿って進路指導主事と相談し、テーマや日程を決めました。また、「授業サポートガイド」が付いているので、導入から展開まで簡単にできました。
<2年次>年間を通じてインターンシップや企業見学などの行事が「総合的な探究の時間」やLHRの時間を組み合わせて計画されているので、その前後の時間に『キャリアノート』を活用しました。
● 〈1年次〉(令和4年度)
1年次は初めに『キャリアノート』《テーマ5.高校3年間の設計図》を活用しました。卒業生の9割弱の生徒が、就職希望で入学する現状ですので、自分の人生を早く設計する必要があります。進路の実現面、学習面、学校生活面と生活面等の頑張りたいことを実際の目標として、生徒一人ひとりが記述し、1年間で頑張りたいことを書き込むことでより明確な目標を作ることができました。また、『玉工手帳』との連携で毎日の細かなスケジュルーをたてることができました。
(やってみよう3生き方を考えよう)では、将来の仕事、将来の家庭生活、地域社会とのかかわり、将来の学習について、様々なライフプランを立てることで、未来をイメージしながら多様性の時代、生き方を実現するために、自分が何をしたいのかを考えて未来をみつめることができました。
(やってみよう4ライフタイムマシン)では、各年代のステージで自分がどのようになりたいのか、どんなことをできるようになっていたいのか、そのためには何をしなければならないのか、といった生活設計やリスクへの備えを学ぶため自分の未来予想図を描くことできました。
● 〈2年次〉(令和5年度)
2年次では、初めに『キャリアノート』《テーマ9.レッツスタート高校2年生》を採用しました。高校1年間で成長したことを振り返り、充実した2年生の生活につなげる為です。自分の可能性を更に広げる学習を実施するために「充実の高校2年生」をどうつくるかを考えるのに最適です。
(WORK1高校1年間の成長記録)では、生活、友人関係、教科学習、生徒会活動・部活動、進路学習で自信を持てたこと、そうでなかったことを記述することで2年生の生活を『教科学習、人間関係、進路探索』の3つの面から、より良くしたい課題と達成したい目標を明確化できます。(WORK2先輩からのアドバイス)では、実際に就職・進学・公務員の合格者からの体験談を聞き自分の進路に繋げるための意見交換会をひらきました。
(WORK4「まなび」の目標を考えよう)では、進路実現に向けて学習の動機を確かめること、具体的な学習目標を定めること、授業以外の「まなび」の目標を考えることができ、高い目標を立てる生徒もいました。
(WORK5人間関係を広げよう)では、就職に必要なコミュニケーション能力をパワーアップするための人とのかかわり方と、人とのかかわり方で心掛けたいことを考えさせることができました。
2年次は、自分の進路を明確に意識する大切な学年です。1年生から比べると学期ごとというよりも月毎に進路行事があります。7月には『キャリアノート』《テーマ12.職場リアル体験》を採用しました。2学期よりインターンシップが始まる前に(WORK1職場リアル体験の方法を学ぶ)で、ねらいに合った、ふさわしい事業所選びを考えさせることができました。(WORK2職場リアル体験の準備)では、職場体験を実り多いものにするためには、十分な準備が必要なので、事前にねらいや理由、体験してみたいことなどチェック項目で確認することができました。(WORK3職場リアル体験のまとめ)では、インターンシップの振り返りを項目ごとにチェックすることができました。働く環境や作業内容、実際に学んだことが仕事にどのように生かせるかを心配していた生徒が見られましたが、事後アンケートを見てみるとコミュニケーション能力を高めることが大切と答えた生徒が多数を占めました。働くことに対する考え方の変化もわかり、今後の取組と課題をまとめることができました。
3学期に入り3年生を目前にして、『キャリアノート』《テーマ17.仕事選びのステップ》を採用しました。2本の就職ガイダンスと進路講演会及び進路説明会が終了すると、各科やクラスによっては進路に関しての3者面談がいよいよ始まります。その前に(WORK1仕事を選ぶ4つの視点)、Q1仕事選びの準備はできているか、Q2具体的な書き込みによる希望する仕事、Q3働くためのモチベーションの順位付けのワークで、自分か現在求めているものが把握できました。さらに、Q4仕事選びに重視する項目をあげ、好みの職業に就く意思を固めていき、実際の求人票から会社を拾い出していきました。(WORK2求人票から仕事を読み取ろう)では、重視する項目のチェックや求人票の読み取り方、検討するときの視点を確認する練習ができました。(WORK3仕事選びのステップを知ろう)では、仕事選びカレンダーを『玉工手帳』と連携して書き出す予定です。最後に就職の条件を整理することで3者面談に備えることができました。
5. まとめ
今回、『高校生キャリアのノート』を活用することで、節目でしっかりと担任と学年団が連携を取りながら職業選びのステップに繋げることができました。
仕事選びの準備は出来ていますかの質問に、「自分の好きなことや得意なことは分かっている」「就職への意思は固まっている」「働く目的は明確になっている」「就きたい職種を絞り込んでいる」と、この時期としては、生徒は自分の進路に対して、しっかりとした考えを持つことができたと思います。新3年生になる前に心の準備、覚悟ができた生徒が半数以上存在し、熊本の好景気に乗れると確信しました。
自己分析のためのノートとは、自分の考えをわかりやすく整理することです。言語化してノートにまとめておけば、自分が何を感じ、何を思っているのかが明確になります。本校独自の記録手帳『玉工手帳』も自分の考えを深掘りするためものです。思いついた内容をメモしておき、あとからチェックする際にも使えます。今回は、インターンシップや半導体事業、スーパーハイスクールなどの体験を通して、この手帳と『高校生キャリアのノート』の連携をはかり実施しました。自分の行動や気持ちを可視化し「なぜを考え」「どう行動をしたか」などがわかりました。令和6年度は、いよいよ進路決定です。生徒にとってよい結果となることを願っています。