キャリアノートを利用した本校の進路指導の現状と課題

1. 本校の概要

 本校は、全校生徒約1,000人、普通科を有する全日制の男女共学校です。大阪商業大学の系列高校3校のうちの1校で、4コース制をとり、特進コースを2コース併設している点が特徴となっています。

 

・進学グローバルコース…系列大学進学を中心としたコース。一般選抜での進学を目指す生徒は少数。

・特進アドバンスコース…中堅私大への進学を目指すコース。

・特進エキスパートコース…地方を含めた国公立大学、難関私大を目指すコース。

・スポーツコース…4クラスあり、うち1クラスは選抜クラス(一部が一般選抜での進学を目指す)。ほとんどの生徒はスポーツ推薦、系列校推薦、指定校推薦で進学するコース。

 
 また、本校の特色として、2年次に「勤労学習」の授業を実施している点があります。学校の敷地内に広い農園を併設し、お米や野菜を育てています。土づくりから田植え、さつまいもの植え付け、稲刈りまで、生徒はすべて手作業で行います。授業では、命の大切さ、作物を作る大変さと喜びを学ぶことができます。毎年11月には「収穫感謝祭」を催し、収穫物を近隣の方々に販売しています。さらに、とれた“もち米”で紅白餅を作り、卒業生へ記念品として贈呈したりもします。 

▼「勤労学習」田植え実習

 

2. 進路状況

 卒業後の進路は、大学進学が約7割、専門学校進学が約2割、残り1割は短期大学・大学校・就職などとなります。おおよそ大阪の私学校の平均的な割合です。進学者の多くは、系列校推薦、指定校推薦、総合型選抜(AO入試)で、一般選抜で進学する生徒は1割に満たないのが現状です。本年度の大学入学共通テストの受験者は20名でした。また、ほとんどの生徒が地元出身である本校は、進学先・就職先ともに地元指向が強いです。大阪南部地域の高校生の特徴を示す言葉として「大和川を越えたがらない」というものがあります。進路指導部としては、「家が近いから」と言う理由だけで地元にこだわり、遠くの大学を考慮に入れないという点に悩みを感じていました。

 

3. 本校の進路指導における課題

 これまで、本校の進路指導における最大の課題は、生徒の志望校・志望企業決定の遅さでした。3年次4月には8割以上の生徒が志望先の仮決定もままならない状態で、7月末の3者面談時になっても、多くの生徒は学びたい分野などが決まっていませんでした。夏休みにオープンキャンパスに行った後、8月末から9月初頭にかけて、指定校あるいは系列校に受験先を決める進学希望生が多数となっていました。本来、一般選抜での進学を目指すべき「特進アドバンスコース」でも同様の事態でした。
 さらに、指定校を選択した生徒の多くは、「第1希望はA大学経済学部、第2希望はA大学法学部、第3希望はA大学国際学部」といった具合に、自分のやりたいことが明確になっていませんでした。選択理由が「家から近いから」といった回答が大半であった点も大きな課題となっていました。

 

4. 進路指導の取り組み

 このような課題が生じた一番の原因は、進路指導を体系的に行っていないことでした。これまで、進路指導、キャリア教育は、1、2年次の2学期11月に各1回「職業別ガイダンス」を行うだけでした。そこで、まず、各学年での目標を設定し、次に1、2年次の目標に向けて成すべきことを選定しました。

▼各学年での目標

 

5. 1年次に『高校生のキャリアノート』を活用

 1年次の段階では、まず自分を知る必要があります。そのため、外部業者の適性診断を利用し、自己理解を深めました。そのうえで職業・学習分野の理解を深めるために『高校生のキャリアノート』(全国高等学校進路指導協会 編集/以下『キャリアノート』)を活用しました。
 特に「特進アドバンスコース」のテコ入れが重要と考え、対象は1年生の特進2コースとしました。まず、1年次11月に行われる「職業別ガイダンス」の事前学習として、『キャリアノート』<テーマ
 3 職業いろいろ発見>
を活用しました(資料2)。さまざまな職業にふれ、職業についての理解を深めることが目的でした。

▼資料2 『高校生のキャリアノート』<テーマ3 職業 いろいろ発見>

 1年次3学期には、「職業別ガイダンス」の事後指導として『キャリアノート』<テーマ6 進学 いろいろ発見>を活用しました(資料3)。いろいろな学校や学習分野について知ったうえで、自分の興味ある職業に就くために必要な学問ができる「上級学校調べ」が目的でした。

▼資料3 『高校生のキャリアノート』<テーマ6 進学 いろいろ発見>

 

1年次の目標である「自分の学びたい・やりたい分野を決める」については、『キャリアノート』の活用によって実現でき、進路指導の課題であった進路決定の遅さを解消する一助となりました。

 

6. 2年次以降の進路指導の展開

 2年次の目標は「志望校・志望企業を決定する」です。進学希望先には、志望校・分野を仮でもよいから決定させます。1学期6月末に「学校別ガイダンス」を実施した後、夏休みに大学のオープンキャンパスに行くように促しました。特に、特進2コースには、オープンキャンパスに行くことを宿題にしました。2学期11月末には、例年同様2回目の「職業別ガイダンス」を実施しました。ここでは、「自分の進みたい分野は、本当にそれでいいのか」を改めて考えさせました。3学期2月初頭に、就職希望生への対策指導の裏で「学校別ガイダンス」を行いましたが、ここでは、「志望校は本当にそこでいいのか」を考えさせ、その後、志望校を決定させるとともに、受験方法も考えさせる機会を設定しました。

▼2年次の進路指導

 

 3年次の目標は「志望校・志望企業合格に向けて頑張る」です。ほとんどの生徒が志望理由書を書きますが、本校では、文章作成が苦手な生徒が多いのが実状です。しかし、これまでは志望理由書の書き方指導について特に行っていませんでした。そこで3年次1学期に、志望理由書の添削指導と評価を外部業者に依頼しました。そして、大学志望先について入試方式を含む最終の意思決定のため、6月に最後の「学校別ガイダンス」を実施しました。

▼3年次の進路指導

 

 このように、1年次から体系的に進路指導を行った結果、現3年生の多くが、自分の本当に学びたい分野を決められるようになりました。指定校希望においても、以前のような安易な希望理由はほぼなくなりました。また、進路実績についても、本年度は特に難関私大への合格者が増えてきたのが特徴となっています。さらに、現2年生については、夏休みのオープンキャンパスがよい刺激となり、多くの生徒が行きたい学校を口にするようになりました。かなり進路意識が高まってきたと評価しています。


7. その他特色のある取り組み

 本校では、本年度11月より、主体的かつ自立した学校生活を送るため「プロジェクト“ゼロチャイム”」を実施しました。朝8時34分に校歌のメロディーが流れ始め、メロディーが鳴り終わった時点からら(8時35分)、登校した人は遅刻扱いとなります。以降、学内では一切チャイムは鳴らしません(ただし、定期テスト時だけは鳴らします)。
 教員も生徒も主体的に授業に取り組むこと、自分で時間管理できる生徒を育てることが目的でした。そのため、校内では携帯電話も持たせませんでした。時間は教室の時計で確認します。実施する前は心配の声もありましたが、「生徒を信じる」「きっとできるようになる」との考えで、校長が決断しました。いざ始めると、遅刻者はほとんど見られませんでした。教員も、「みんなでやればできる」と、プロセスを楽しむ気持ちでこのプロジェクトに取り組むことが大事であると感じました。
 なお、次年度は、プロジェクト第2弾として「“Feel my own Growth” プロジェクト」を計画しています。これは、生徒一人一人が単年度の目標シートを作成し、学校生活、成績に関して、自らPDCAを意識させることが目的です。年度当初に目標設定を行い、その結果を、1学期末7月の3者懇談の場で、保護者と担任に対して、5分間のプレゼンという形で発表させる予定です。
 このようなプロジェクトは、本校を誇りとし、“生徒も教員も自慢できる商大堺”を築くことをテーマとして、取り組んでいるものです。

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