■ 本校の概要
本校は、群馬県佐波郡玉村町に位置し、大正11年に玉村実業補習学校女子部通年科として開校されました。現在は、男女共学・全日制普通科の高等学校となり、平成30年度で開校96周年、卒業生は1万人に達しつつあります。玉村町は前橋市や高崎市などに囲まれており、近隣自治体からの通学者も多く、立地に恵まれています。
本校は、校訓に「誠実・勇気・奉仕」、スローガンに「璞玉(あらたま)から珠玉(しゅぎょく)へ」を掲げています。生徒は、入学段階ではまだ磨かれていない粗い玉ですが、卒業時にはぴかぴか輝く玉となって社会に出られるよう、教職員一同、日々指導に努めています。
卒業生の進路の内訳は、例年、進学が5割程度、就職が4割前後です。今年度は、4年制大学進学者がやや多くなり、進学の割合が増える見込みです。例年、3年次の2学期には、生徒の進路はほぼ決定しています。
本校が目指す生徒像は、自身のキャリアを高め、当たり前のことがきちんとできる生徒です。キャリア教育にあたっては、「基礎・基本の充実」「コミュニケーション力の育成」「進路選択力の育成」の3つを柱としています。また、群馬県は、実際には草津温泉などの多くの観光地等の強みがあるのにもかかわらず、株式会社ブランド総合研究所が発表した2018年都道府県魅力度ランキングでは42位に甘んずるなど、その魅力が全国には十分に伝わっていないのが現状です。そんな群馬県をどんどん全国へPRしていける人材を育てるというのも、本校の目標の1つです。
■ 本校の特色ある取り組み
本校は、平成21年度に群馬県教育委員会から「ぐんまチャレンジ・ハイスクール(先進的な取組を行う新しいタイプの高等学校)」に指定され、それ以来、学校設定教科「教養表現」を設置しています。教養表現では、表現力・コミュニケーション力を高める活動に特化した授業を実施しています。本校には、基礎学力不足や生活習慣が確立していない生徒、過去に不登校を経験した生徒が少なからずいます。それらを克服するための指導の一環として、同教科は大きな役割を果たしています。
教養表現の授業では、1クラスあたり4人の教員が配置され、細やかで丁寧な指導が可能となっています。内容は挨拶やマナーに関するものが多く、1年生には「表現基礎」、2年生には「マナーと表現Ⅰ」、3年生には「マナーと表現Ⅱ」という科目がそれぞれ割り振られ、社会性や表現力について順を追って段階的に学べるよう工夫されています。
また、「社会性と表現力を身につけ、人の痛みがわかる人材をはぐくむ」ことを目的に、教養表現に加えて「総合的な学習の時間」と「特別活動」を組み合わせて「玉高チャレンジプラン」を構成しています。これにより、それぞれの学習内容が連動しながら、生徒自身がどのような能力を伸ばすことができるかが明確になったため、学習の見通しが立てやすくなりました。
この他にも、英語と数学での習熟度別学習や、タブレット等のICT機器を活用した学習も、本校の特色として挙げられます。
■ 本校のキャリア教育
本校の進路指導部は、「生徒指導が進路指導の要」という考えを共通理解として指導に取り組んでいます。当たり前のことができることが重要であり、具体的には「欠席・遅刻・早退をさせない」「その場での指導」「つまずきの改善」「キャリア教育関連行事の充実」等を方針として掲げています。
キャリア教育関連行事については、校内だけでなく外部の方々のご協力も得て実施しています。主に、次のような行事を実施しています。
●先輩からのアドバイス:新3年生が新2年生に、新2年生が新1年生に、自身の体験を踏まえて学校生活等に必要なことを教える。
●卒業生を囲む会:卒業生に、在校生の就職や進学に関する疑問や悩みに答えてもらう。
●PTA・ライオンズクラブ模擬面接:PTAとライオンズクラブの方々にご協力いただき、就職・進学試験を控える3年生を対象に模擬面接を計3回実施。
●インターンシップ報告会:2年次に実施しているインターンシップの事後指導として、生徒自身が体験をスライドにまとめて発表。
■ キャリアノートの授業実践
(1)3つの工夫
本校は、平成29年度より『高校生のキャリアノート』を使用しています。採用にあたっては、生徒たちに自身のキャリアについてより主体的に考えてもらうという観点で、この教材が本校のキャリア教育の足りない部分を補ってくれるのではないかと考えました。
平成30年度は、2・3年生の「総合的な学習の時間」で『キャリアノート』を使用しました。また、『キャリアノート』をより有効に活用するため、本校では下記の3つの工夫を取り入れました。
①1テーマの学習を無理に1時限以内に収めようとはせず、数時限かけて実施する。
②あらかじめ生徒に配布している「手帳」を活用する。
③学校行事や教科と関連付ける。
(2)「手帳」でスケジュール管理
前項で挙げた「手帳」について説明します。本校では、生徒にスケジュール管理を習得させるために、手帳を配布しています。本校生徒のほとんどはスマートフォンを所持していますが、それをスケジュール管理に活用できている生徒は非常に少ないのが現状です。そこで、手帳を配布して自身の予定をあえて紙に手で書かせることで、スケジュール管理に慣れさせるようにしています。メモを取る習慣を身に付けさせ、少し先の予定や将来について考えさせながら、生徒なりに課題に取り組む習慣を持たせたいという狙いがあります。また、本校で導入が予定されているeポートフォリオやキャリア・パスポートを見据えた準備という意味合いもあります。
手帳の使い方については、平成29年度の導入時に手帳制作会社の方にガイダンスを実施していただきました。その後は教員が主導し、ホームルーム活動や学校行事のたびにメモを取るよう声掛けをしています。具体的な指導内容としては、毎週月曜日の朝に全生徒の手帳を回収し、教員が各自分担して評価した後、その日の帰りに生徒に返却しています。教員は、回収した手帳にコメントと評価を記入し、その評価は点数化して教養表現の成績に反映させています。比較的上手く書けている生徒が多く、学校行事や講話の際に単に聞いた内容を羅列するだけでなく、その場で整理して自分なりにまとめられる生徒も増えてきています。
手帳導入の成果としては、忘れ物をする生徒が減ったことや、また生徒たちの物事を整理する力が身についたためか、発表等の際に原稿を見ずに対応できる生徒が増えたことが挙げられます。さらに、手帳に自身の正直な気持ちやプライベートなことを記入する生徒も多く、その分教師が生徒に声掛けをしやすくなりました。
(3)学校行事と関連付け
平成30年度は、2年生の5月の授業で<テーマ9 レッツスタート高校2年生>を使用しました。この時期は、1年間の高校生活を経て、挨拶等の当たり前のことができる生徒が増えた一方で、どうしても羽目を外してしまう生徒もいます。また、進路意識はまだ低く、そもそも「進路希望は無い」という生徒も多いです。よって、生徒たちの依然曖昧な目標を具現化するという目的で授業を進行しました。なお、今回は前述の「3つの工夫」に則り、「3時間かけて実施」し、「手帳に重要事項と今後の計画を記入」させ、「学校行事『先輩からのアドバイス』と関連付け」るようにしました。
まず、「先輩からのアドバイス」を1時間目に実施し、『キャリアノート』の事前学習に位置づけました。先輩からのアドバイスは、教員の指導よりも生徒にとってより身近に感じられるため、生徒たちの意識づけに有効です。その後、生徒たちはワーク1「高校1年間の成長記録」に取り組み、進路実現に向けて2年次の目標設定を行いました。
2時間目は、まず、生徒たちに学校での自身の役割を個別に考えさせた後、ワーク2「先輩からのアドバイス」で先輩から実際に聞いた話の内容を参考にしながらグループで話し合いました。その後、ワーク3「高2カレンダーを作ろう」で自身の重要な計画についてまとめさせて、その内容を手帳にも転記させました。
3時間目は、本校生徒の適性等を鑑み、ワーク4「『まなび』の目標を考えよう」の後に各自の学習目標を設定させ、その後ワーク5「人間関係を広げよう」に取り組ませました。このように、その学校に適した内容を取捨選択したり、順序を入れ替えたりしやすく構成されているのが、『キャリアノート』の強みだと思います。
(4)進学・就職に向けてのモチベーション維持としての活用
2つ目の実践例は、3年生の9月に使用した<テーマ16 進路先へジャストフィット>です。この時期、ほとんどの生徒は進路を決めています。ただ、就職希望者は夏休み前から準備をさせている一方、進学希望者は就職希望者と比べると準備が遅れがちで、進路意識がやや低いという事情があります。いざ受験先が決まっても受け身の生徒が多く、また進路先が決まってもその後のことまで考えられる生徒が少ないのが現状です。そこで、『キャリアノート』を使用することで、卒業後の自分について考えさせ、新生活に向けて前向きな気持ちで一歩を踏み出させたいと考えました。 1時間目は、教養表現の一環として面接練習とその振り返りを行いました。2時間目は、1時間目で浮かび上がった課題をもとに、そもそも「なぜ進学・就職なのか」を考えさせました。具体的には、ワーク1・2で卒業後にやりたいことを考えさせた後、グループで各自の意見をシェアさせるという流れです。その際、前向きな意見を出すように声掛けを行いました。その後、ワーク3に掲載されている新生活の悩みの事例をもとに、グループごとに不安の元になるような要因について話し合ってもらい、なぜ自分はその進路を選んだのかを改めて考えさせました。
授業後の生徒の反応は、「同じ不安や考えを持っていることが分かり、安心した」という意見が多数でした。その一方で、「合否が出ていない今の段階では、卒業後のことなんて考えられない」という意見もありました。また、教員からは、「合否が出ていない中で、具体的なビジョンがうかばない生徒も多かったが、グループ活動では意外にも多くの意見が出された」「事例が具体的すぎてピンとこないという生徒もいた」「前向きな意見が多く出されて良かった」等の声がありました。
本授業を通じて、生徒たちは進路が「自分が進む道」であるという意識を再確認できたようです。また、仲間と悩みや不安を共有でき、進路に向けて前向きに取り組んでいました。3年生の後半という大切な時間に、未来について考えさせることができたという意味で、本授業は有意義なものになったと思います。その一方で、授業計画では長期的な将来設計から短期目標を考えさせたいと考えていたが、なかなか上手くいかなかったことが今後の課題として挙げられます。教員側としては、進路が決まっていないこの時期だからこそ、将来についてじっくり考えさせたいという狙いがあり、その意図を生徒たちにしっかりと伝えておく必要があったかもしれません。
■ まとめ
『キャリアノート』は、そのまま使用するのも良いですが、学校行事や他教科と関連させると進路についてイメージしやすくなり、より効果的に活用できるように思われます。本校では、自身のキャリアについて、学習面だけでなく生活面や進路希望、金銭感覚等の様々な方面から、より生徒たちが主体的に考えることができたと考えます。その一方で、課題としては、『キャリアノート』をより有効に活用するためには、付属の「授業サポートガイド」に頼るのではなく、キャリア教育全体を横断的に再考してその学校に合った指導法を案出する必要がある点が挙げられます。
『キャリアノート』の活用は、生徒自身だけではなく、我々教員にとっても非常に有意義でした。特に、学校全体で我々教員がキャリア教育について話し合い、本校ならではの活用法を模索・実践することを通じて、キャリア教育への意識や取り組み方を向上させることができました。今後も研究を進め、本校にとって、より適した活用方法を考えていきたいと思います。